こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア61 ウズベクで闇両替 コーカンド

ニギナホテルは塗装の匂いがまだしっかり残っている新しい建物だった。通された部屋は3階建ての3階にあるロフト風のツインルームだ。天井が建物の屋根に沿って斜めなのが気になるが、それを除けばホテルシャルクとは比べ物にならないくらいに質は良かった。久しぶりのエアコンとホットシャワーまで付いている。これで3万ウズベクソム。日本円でいくらに相当するかは後述する議論があるが、ひとまず1Kソム=33円として計算すると約1,000円とそこまで高額ではない。

現金を手に入れるために町へ出ることにした。このニギナホテルは街の北はずれにある。炎天下の中、ひたすら南を目指して歩く羽目になった。もっともこの頃には適応していて、酷暑の中を歩くくらいではめげなくなっていた。旅を通して歩き続ける能力だけは向上したと言えるだろう。およそ日本では何の役にも立たない能力だが、強くなったなと実感するだけでも気分はポジティブになれるものだ。

さてしばらく歩くと町の中心地に着いた。しかし僕が目指しているのは銀行ではない。更に南に東に進みデホーンバザールという市場に向かった。なぜわざわざ市場で両替するのか?それを説明するためには、ウズベキスタンには公定レートと闇レートの2種類のレートが存在することを知ってもらう必要がある。ここでインフレと金融政策について論じるつもりはないが、闇レートの方が3割お得だというのがここでの相場である。そしてここコーカンドで闇両替が出現するのがデホーンバザールなのだ。

バザール辺りの道に立ち止まってきょろきょろしていると、どこからともなく両替商人から声が掛かる。相場が分からないので言い値での取引だ。レートは100ドル=225,000ソム。初回ということで50ドルを両替し112,500ウズベクソムになった。11万2500ウズベクソム。問題は最も高額な紙幣が1000ソムだということだ。どーんと1000ソム112枚と500ソム1枚の大枚を渡され、財布に入りきらない。50ドルでこのありさまだから、以降ウズベキスタンでは大枚の管理に大いに悩まされることになった。

さてバザールにはメロンが山積みされていた。いくらかと聞くと1個100円もしない。甘い匂いのするやつを一つ選んでホテルに買って帰ることにした。

 

復路はバスで戻った。バス停でバス待ちをしていると少年に話し掛けられた。ペットボトルの水をくれと言う。断るのも気まずいので手渡すと、ゴクゴクとうまそうに飲んだ。だからと言ってそれ以上何か話が発展する訳ではない。用事はそれだけだ。それから、バス車内では運転手が後ろを振り返って、お前の仕事は何かと話し掛けてくる。ちょっと面食らうが、とてもフレンドリーな土地柄なのだと思う。見知らぬ外国人に水を分けてくれとか普通言わないし、運転手が客に職業聞いたりもしないよなあ。

宿へ戻ると、僕はメロンを冷蔵庫に放り込みクーラーを効かせて横になった。クーラーの効いた部屋のベッドで寝転がること自体が久しぶりすぎて、あまりに気持ちよくて自然とまどろんでしまっていた。目が覚めると夕刻に差し掛かっていた。夕食はホテルのカフェで取った。意外と料理がしっかりしている。チキンケバブプレートとスープで12.7kソム。さっきの両替レートでいくと1kソム=3.6円だから、450円くらい。タジクより物価はやや高い。ただここのパンはおいしいし肉も悪くない。洒落たカフェで贅沢な夕食をしている罪悪感は多少あるが、今はそういう気分だった。

夕食後部屋に戻り、シャワーを浴びた。シャワー室の換気は悪く、屋根のせいで屈まないといけないといった不自由はあるのだが、ホットシャワーがドバドバと出ることに感動する。熱いシャワーを思う存分浴びるのが思い出せないくらいに久しぶりなのだ。シャワーがこんなに気持ちが良いなんて!

そして風呂上りには冷蔵庫で冷やしておいたメロンを半分に切って、そのままスプーンですくってかぶりついた。甘い!思わず言葉が出る。しかも一個たったの90円なのだ。何の遠慮もせずに極上のマスクメロンにかぶりつくことができる。

今日は何か感覚が麻痺しているような気分だった。

贅沢は我慢と緩和にある。