こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

鄭州 中国

2011年9月15日

夜が明けて僕は再び如意湖にいた。なぜわざわざ二日連続で足を運んだかは覚えていない。ぼんやりと記憶にあるのは、大きなコンベンションセンターの中に入ったことだ。コンセプトやテーマに統一性のまったくない展示会が開催されていた。キャンプ用品やお茶、キノコもあればなぜか書がずらっと並んでいて、日頃は書などまったく興味がないのに、まるで品評に来た関係者の体で一点ずつ眺めて時間を潰していた。





如意湖周辺は昨日のゴーストタウンぶりとはうってかわって多くの人で賑わっていた。昨夜見た夜景が幻だったのではないかと思うくらいに雰囲気が変わっていた。こういう都市の雑踏はかなり久しぶりだと思った。そしてそのことに気が付いて得体の知れない恐怖を覚えた。
この3か月近く、テロや紛争が身近なものとしてある中央アジアを旅してきた。それらの国ではどこでも警戒態勢は厳重だった。街の至る所で警察官が目を光らせ、駅や建物の写真を撮ろうものなら彼らがすっ飛んできて画像を削除させられたものだった(そのついでに袖の下を要求された)。車の中からトンネルを撮影しようとして、乗客からカメラを叩き落とされたこともある。国境を越える時の検査は、カバンの中をペン1本に至るまで調べ、空のカバンを文字通りひっくり返して隠し物がないか確認し、1,000枚以上の写真すべてに目を通す徹底ぶりだった。ウズベキスタンのフェルガナ盆地では100台以上の戦車の車列の横をびくびくしながら通り過ぎたこともある。
こうした光景が日常になった自分にとっては、逆に警官のいない雑踏は隙だらけに思えた。もしも市民の中に爆弾を持った人間が紛れ込んでいたとしても、防ぎようがない。それが今隣にいる人かもしれない。
想像が働き始めると心臓の鼓動が脈打っていることに気が付いた。この人ごみを一刻も早く抜け出して安全な場所に移動することにしよう。

こうして中央アジアの旅は終了した。