二回目の蘭州
9月13日
二度目の蘭州はよく楽しめた。一度目は初めて触れる西域の空気と刺激に気圧されてしまったが、二度目は都会としてこの街を眺めている自分がいた。近代的なショッピングモール(どこでもありそうな代り映えしないものだが)や買い物客たちが緊張感なく無目的に歩くさまが、中央アジアの辺境に慣れた目には新鮮に映る。僕もそんなだらだら歩く観光客(自分がまさしくそうなのだが)に交じって、アイスクリームを片手に目抜き通りを歩いた。この警戒心のない感覚が妙に心地よい。このアイスは緑豆あずきキャンディーという中国ではいっぷう変わった和風テイストだったが、こうした既製品を食べるのが久しぶりだったせいかやたらとうまかった。
=あずき緑茶アイスバー=
蘭州にはロープウェーで登れる山が2つある。黄河を挟んで北側の白塔山公園と駅背後の蘭山公園だ。一度目の蘭州では前者に登り、二度目は後者に登った。時間に限りがありどちらか一つしか選べないなら、駅裏の蘭山公園を推す。眺望の迫力ではこちらに軍配が上がる。高層ビル群が近いのだ。高層ビル群と乾いた大地の奇妙な組合せ。悪くない。中国一大気汚染の酷い街という不名誉な称号を与えられている蘭州だが、今日は青空が広がりすがすがしかった。過酷な中央アジアの旅が終わり、疲れた体と精神をいたわるように心を無にして、乾いた大地をじっと眺めていた。
蘭州では招待所と呼ばれる最下層ランクの宿に投宿した。窓すらない狭く小汚い部屋だったが、この頃にはまったく気にならなくなっていた。むしろ外国人登録という煩わしい(正規の)手続きがない点が気に入っていた。我ながら強くなったのかなと思う。そしてこういう激安宿に泊まったことを誰かに言いたくて仕方がない自分がいる。今の若者にはあまり無い感覚かもしれないが、バックパッカーの世界では、安くて汚い宿に泊まった方が勝ちという価値観がある。これは単なる節約自慢を超えて、安宿に平気で泊まれるたくましさが旅行者としての能力の高さを示すと信じられているからだ。私も(認めたくはないが)この価値観に縛られていることに気が付いた。昔はこういう安宿自慢が大嫌いだったのに。
夕食は駅近くの食堂で牛肉麺(いわゆる蘭州ラーメン)を食べた。2か月前に名店馬子禄を訪れた時、注文してから10秒かからず商品が提供されるシステムに驚嘆したものの、味については何かが物足りなく正直言うとがっかりした。ところがどうだろう、今食べている牛肉麺はなかなかいけるじゃないか。馬子禄と味が違うのか、自分の舌が変わったのかどちらだろう?2か月前の味を反芻しながら、客のいない深夜の食堂でラーメンを啜った。
=鉄道の切符 ウルムチから上海まで750元(当時のレートで約1万円)=