こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア26 ビシュケクへ

カザフには10日ほど滞在した。

キルギスの首都ビシュケクは、アルマトゥイの西200kmにあり、ソ連時代からの道はよく整備されている。両首都を結んでいるのは小型のミニバンで、サイランバスターミナルには「アルマトゥイ‐ビシュケク」と掲げた車がたくさん停まっている。ビシュケクまで1200テンゲ、所要時間は約5時間だ。

 

僕の乗ったミニバンは、10時半に出発した。アルマトゥイの街を抜けるとすぐにステップが現れる。数日ぶりに見るステップが懐かしい。青い山に青い空、緑の草原と積み上げられた藁ロール。中央アジアの車窓の風景は、心を開放してくれるし、頭の中のもやもやもどこかに霧消する。

国境には、途中休憩をはさんで3時間強で到着した。イミグレはとてつもなく混雑している。週末だから特になのかもしれないが、建物に入ることすらできない有り様だ。バックパックを担いだ僕は、人込みをかき分けるのには圧倒的に不利だった。前に進もうにも、右から左から人に割り込まれて後ろに押し出されてしまう。こうして他の人の倍ほどの時間をかけて、ようやく出国審査官のカウンターに辿り着いた。

そこで僕は、はたと思い出した。本来セメイですべきだった「外国人登録」をしていないのだ。無事ここを通過できるかという一抹の不安が頭をもたげた。またジェミナイ‐ザイサン国境の時のように、別室に送られ徹底的な取り調べを受けるのではないだろうか。だがここの係官は、少し考える風にパスポートを眺め、こちらをちらっと一瞥したものの、何も言わずにスタンプを押した。ここでいちいち一人の日本人を止めていたら、山のような出国者を捌けないと考えたのだろう。

一方のキルギスは、中央アジアでビザを要しない唯一の国である。だから入国はいたってスムーズだった。キルギス側のイミグレを出たところでミニバンが待っている約束だったが、どこにも見当たらない。やはり、と思った。国境通過に時間を食っている間に出発してしまったのだ。ただ、平気で人を置いていくのは、乗り過ごしても次のミニバンに乗ればいいと思っているからだろう。客待ちをしている運転手に声を掛けてみると、快く乗せてくれた。

国境から首都ビシュケクまでは近くて、1時間もかからなかったと思う。バスターミナルからは114番のマルシュルートカで市街に出た。マルシュルートカとは旧ソ連の国でよく見かける、バンタイプの小型バスと言えば伝わるだろうか。

宿に着いた後、荷物を置いてすぐに街に出た。ベータストアという近代的スーパーの2階のレストランに入った。ところがここはトルコ料理レストランだったので、サラダとシシカバブを頼んだ。サラダがキュウリとトマトを切って並べただけのものだったのが、少し悲しかった。アルマトゥイが恋しくなった。レストランから宿までの帰り道は暗くて怖かった。こんなに街灯の少ない街は中央アジアで初めてだったのだ。

今日はなぜか眠りに付けなかった。ベッドで横になるのも退屈なので外へ出た。きれいな半月だった。一人夜空を眺めていた。午前4時には近くのモスクの尖塔からアザーンが流れた。物悲しい旋律がこれまでの旅を回想させ、僕は余韻に浸っていた。