こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア22 アルマトゥイへ

2011年7月18日
アスタナ駅の4つあるカフェは旅行者にとってうれしいことにレベルが高く、豊富な選択肢を提供してくれた。今日行った旧駅舎のレストランは、建物こそ古いものの立派な造りで、優雅に食事をすることができた。ショーケースからおかずを選ぶスタイルだから、言葉が出来なくても困ることはない。鶏のグリル、サラダ、焼き飯、ケフィールとお腹いっぱい詰め込んで、それでも740テンゲと安く上げることができて満足だった。
食事を終え部屋へ戻ると、例の二人組が仲良くビールを飲んでいた。殴られた方がけろっとしていて安堵した。しかし昨夜あれだけの騒動があったのに、また翌日の昼間からアルコールを飲む姿には呆れてものが言えない。僕が眉をひそめるとそれに気付いて、これはビールだから大丈夫と言って、僕にペットボトルのビールを手渡した。彼らの旅の目的はよく分からなかったが、これからモスクワまで飛び、最終的にはロンドンまで行くらしい。国内移動でこれだけ弥次さん喜多さんの様にひと悶着起こしているようだと、ロンドンまでたどり着けるのか心配になる。


宿を21時にチェックアウトし、バスターミナルに向かった。今日は旧首都アルマトゥイまで向かう。所要時間は約16時間。ちなみにこのバスも寝台バスではなくイス席だった。

僕は通路側だったが、隣に座ったのは20歳くらいの女の子だった。黒髪のショートカットで、黒いニットに丈の短いタータンチェックのスカートを履いた品の良いお嬢さんだった。ルイビトンのバッグを抱えているので、裕福な家庭の子女なのだろう。
彼女は僕にしきりに食べ物を勧めてきた。最初はガムとか飲みかけの缶ジュースだったのだが、続いてヒマワリの種を手渡してきた。僕が殻を割るのに悪戦苦闘していると、彼女は手早く自分の前歯で殻を割り、中身の種を僕の口に放り込むということを繰り返した。見知らぬ人に随分と踏み込んだことをするものだと思ったが、この親切な行為が、外国人の物珍しさがそうさせるのか、客人をもてなす遊牧民族の教えによるものかを考えていた。

セメイアスタナのバスと比べるとまだシートピッチは広い。しかしこの年になると、長時間の夜行バスが椅子なのは正直きつい。足を組み直したり、腕を組んだりして楽な体勢を探るが一向に眠れない。隣の女の子も眠れないのか、色々な姿勢を試していた。やがてこうするのが一番楽だと思ったのか、窓側に顔を向け体重をかけるように背中を完全にこちらにもたれかかる格好で落ち着いた。しかしそれでも眠れなかったのか、今度は反対に窓に頭を乗せ横になり、脚をこちらに投げ出してきた。どうしても脚同士がぶつかり、膝でタータンチェックの裾がめくれ上がるのだが、気にする様子はない。カザフの人は多分その辺に関しておおらかなのだろうと思う。
ただ、もし車内にムスリムがいたら、こういう状況は良く思わないのではないか。アスタナでのモスク建設を見ても、カザフはイスラム教の復興に力を入れているように思えたが、人々はかなり世俗的だ。純粋で不寛容な集団がいつか現れたならば、アルコール依存の人々や人懐っこい女性を許容しないだろう。国民の70%を占めるムスリムが覚醒した時、軋轢がどう生じるだろうか。