こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア20 アスタナ カザフスタン

2011年7月17日

短時間のうちに深く眠っていたようだった。バスターミナルの職員にとんとんと肩を叩かれ目を覚ました時には、朝6時だった。外に出ると、空はこれから明るくなっていくところで、鉄道駅の建物が、側面を朝日に照らされ眩しく光っている。空気がこれまでになく寒く思わず身震いをした。
駅に入ると、こちらにもホテルが併設されていた。5人ドミトリーが、2200テンゲ(1200円)。値段の割には新しく綺麗で天井がとても高い。ベッドもセメイホテルと比べ物にならないくらい質がいい。大きな窓の向こうはプラットフォームと繋がっている。それが利点かどうかはともかく、全体的には悪くない。ここに投宿することに決めた。駅のセルフ式カフェで、ハンバーグ、目玉焼き、ピロシキ、サラダ、ヨーグルトを食べ、バックパックを回収し、有料シャワーを浴びてからベッドで横になった。

昼過ぎに目を覚ました後、バスで新市街に出た。アスタナは「首都」という意味のカザフ語で、旧名をアクモラ(カザフ語で白い墓)という。1997年にカザフスタンの新たな首都として定められた計画都市だ。イシム川の北側に鉄道駅と旧市街があり、南側と東側に新市街が広がる。風が強く吹く極寒の地に、国の財力を惜しみなく投入し、新たに首都として整備された。
カザフスタンは石油・天然ガスなどの豊かな資源に支えられて、経済成長が著しい。1人当たりGDPが1万ドルを超える中央アジア唯一の国である。中央アジアの中で比較すると、最も貧しいタジキスタンとの経済格差は10倍以上にもなる。そこに独裁的な政治体制が加われば、豊かさを顕示するような街づくりになるのは必然だろう。現代建築のショーケースのような新市街を歩けば、いやがうえにも新しい国の勢いを感じさせられる。気鋭の建築家たちが、「従来の枠組みにとらわれず自由に建ててよい」と言われ、思いつくままに着想と実験を重ねた結果が目の前に広がっている。ライターや犬のエサかごのように見える奇抜なビル、緩やかな弧を描く官公庁の建物、ギザギザのオフィスビルなど、特に立体的動線を強く意識しているように感じられる。これらの試行錯誤をいくつも重ねる中で、やがて次世代の建築の基礎を成していくのかもしれない。
街の西端にはハーンシャティールという巨大なテント型ショッピングモールがでんと構え、そこから東西軸に沿って街が延びる。軸の東端に大統領宮殿が鎮座し、中心には街のシンボルである「バイテレク」が聳える。バイテレクは「幸福を運ぶ金の卵を抱えるポプラの木」という神話をモチーフにした、高さ105メートルのタワーだ。上部の卵部分へエスカレーターで上がることが可能で、展望台からは、アスタナ新市街のビル群を余すことなく眺められる。東側の広場には、絵を構成するよう植えられた色とりどりの花と噴水がシンメトリーに配置されている。1㎞東に、頂部を切り落とした黄金色の巨大な円錐が門柱のように2本並び、その向こうに大統領宮殿が鎮座する。大統領宮殿の更に向こうには、謎のピラミッドが立つ。感心したのは、バイテレクから見て1.2kmにある大統領宮殿の尖塔と、2.4㎞先のピラミッドとが、寸分の狂いもなく重なるように設計されていたことだ。白紙から作られた現代建築においてだからこそ、なせる技である。ちなみに展望台にはナザルバエフ大統領の手形が置かれているが、かなりの行列で手を重ねることは諦めた。
昼食をハーンシャティールで取ることにした。外から見るよりテントの中は広く感じる。内部は吹き抜けになっていて、まず驚いたのは、中央の柱がフリーフォールになっていたことだ。アトラクションはこれだけにとどまらず、4階部分からは、吹き抜けにせり出すように空中自転車のレーンが通り、最上階は人工的な熱帯ゾーンで、会員制のプールになっている。モールにはKFCのような世界チェーンもあれば、日本食レストランも入っている。広いお洒落なイタリアンレストランに入りカルボナーラを頼んだ。注文方法が変わっていて、麺と具を別々に頼むシステムだった。最初はメニューを見ながら安いなと思っていたのだが、それは勘違いで、麺と具がそれぞれ600テンゲかかり、そこへ更にサービス料100テンゲが乗って最終的に1320テンゲ(700円)になった。フードコートのみそ汁が500テンゲだから、モール全体の物価がそれなりに高いのだろう。ソースと麺がよく絡まった美味しいカルボナーラだったが、ベーコンは羊だったのではないかと思う。

旧市街の宿に戻る。5人部屋は僕の独占状態だった。床のフローリングはきれいに掃除され、裸足で歩いても気にならない。部屋は北向きで涼しい。とても快適だ。ただこの部屋には問題があった。目の前のホームから、出発と到着を知らせる朗読調の放送がひっきりなしに流れ、その度に眠りが分断されるのだ。