こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア13 ウルムチ出発 2011年7月12日

2011年7月12日 セメイへ

いよいよ中国を出国する日がやってきた。上海から数えると1か月近く中国に滞在していたことになる。ウルムチに到着した日から計算しても18日目だ。これほど長く中国に、そしてウルムチに滞在することになるとは思ってもみなかった。食べること、寝ること、移動、言語、通貨などの生活様式すべてについて、すっかりウルムチ式が身についてしまい、今それらをすべて放棄するのがとにかく億劫でしょうがなかった。
僕はひどく緊張していた。そして緊張が高じて、昨日はとうとう下痢に見舞われてしまった。環境の変化に敏感すぎる自分が嫌になる。

次に向かうのは、カザフスタンのセメイという街だ。旧ソ連カザフスタンは、日本の約7倍の国土面積を擁し、東は中国、西はカスピ海まで及ぶ。セメイはウルムチから見て北北西900km、北緯50度に位置する。つまり南樺太境界線と同緯度にある街だ。なぜ、このあまり知られていない北の町を目指したのか?理由は後で述べることにする。

19時にバスは出発した。乗客は僕を除いて全員がカザフスタン人だった。外国人はおろか、中国人すら一人もいない。どうりで、バスのチケットを買う時に、「本当にセメイに行くのか?」と何度も念押しされたわけだ。このバスは、もっぱらカザフスタン人が中国に来るためのものなのだろう。

バスは空間にゆとりをもたせた寝台バスだ。車内は土足禁止で、両窓際に2段ベッドが並ぶ。中央の通路には絨毯が敷かれ、おばさん達が座って雑談をしている。座席の横幅は広く、仲の良いカップルなら二人で寝ることもできるだろう。だが座席の構造に問題があって、頭の部分が高すぎる。仰向けになると、頭が変に持ち上がって、非常に寝にくいのだった。

最初の休憩は、出発1時間後の20時だった。サービスエリアは、ウルムチと比べて空気が澄んでおり、その分、陽射しが強く感じられる。ここは、新疆の辺境とはとても思えないくらいに整ったサービスエリアで、トイレが近代的で清掃が行き届いていることに感心した。次の食事がいつになるか分からないので、僕は、しっかり拌面を食べることにした。直後にお腹が苦しくなり下痢の再来を恐れたが、なんとか持ちこたえた。中国ではこれがおそらく最後のトイレ休憩になるだろう。これからの道中で下痢が起こらないことを強く祈った。

十分な休憩を取ったあと、我々は出発した。バスは、見渡す限りの広大なヒマワリ畑の中、陽の沈む方向へ向かってひたすら進む。藍色の空と夕焼けのグラデーションが印象的だった。そして感傷に浸っている間に、いつしか日没を迎えた。窓越しでもはっきりと分かるくらいに星が瞬いていた。僕はずっと星空を眺めていた。旅をしているという高揚感を、久しぶりに自覚しているのだった。