こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア9 ウルムチ

2011年7月3日

麦田ユースホステルから古巣の新疆飯店に戻って来た。前回の4階から2フロア上がって6階に上がると床タイルがきれいで、それだけで部屋の雰囲気がまるで違う。眺めも少し良くなった。窓から見下ろすロータリーと高架道路も、遠くに見える茶色い乾いた山のどちらも好きだった。天井が高く窓も広いので開放感がある。ベッドと枕が程よい硬さなのもいい。こまめな水分補給は絶対に必要だ。電気ケトルで湯を沸かし水筒でお茶を淹れる作業を1日に何回も行った。最初はミネラルウオーターでお茶を作っていたが、消費量が半端ないので、途中から水道水で入れるようになった。汚いトイレとシャワーも慣れれば快適に使える。いつしか僕はこの新疆飯店の611号室が好きになっていた。

一日の生活リズムはほぼ固定となった。朝食は近くの粥屋で、1元の粥と1元の饅頭を食べる。粥は味が付いていないので、醤油、塩で味を調える。饅頭も具なしなのでソースで味付けする。それだけで物足りない時は1.5元の目玉焼きを追加注文する。このフルコースでも3.5元、40円ちょっとだ。朝食後、宿へ戻りトイレと洗顔を済ませてから、午前の時間を勉強にあてる。場所は決まってディコスというKFCに次ぐ中国第2のファーストフードチェーンだ。店舗の内装が明るくきれいなのでゆっくり落ち着いて過ごせる。フードはフライドチキンバーガーが主力商品だが、若者が好みそうなドリンクも多い。僕はクーポンを使って5.5元のアイスコーヒーを毎日飲んでいた。午前は比較的閑散としているので、長時間自習していても文句を言われる雰囲気はない。これから向かう中央アジアに備えてロシア語の教科書を読んでいた。市内にはロシア語教室もあるくらいなので、ロシア語を勉強していても訝しがられることはない。ただ、格変化と前置詞が出てきた段階で頭がパンクし、読了は断念した。
昼食はパークソン4階のフードコートをぶらついて、食べたいものを適当に見繕う。それから午後は、新疆飯店近くの奇声網吧というネットカフェで時間を潰す。網吧というのは中国でいうところのネットカフェだ。原則として身分証明書の提示が必要だが、店員の誰かのIDカードを使ってログインを行う。緩いところではパスポートチェックはないが、厳しいところだとパスポート番号を控えたりコピーを取ったりもする。そもそも外国人に慣れていないところでは、門前払いとなることが多い。店内にはデスクトップのパソコンがずらっと並び、若い客がひたすらオンラインゲームに熱中している。奇声網吧はネーミングも妙だが、これまたクーラーのない雑居ビル半地下にある、快適とは程遠い環境だった。あまり長時間滞在すると熱中症になるし、外に出た時、眩しい太陽に晒されて後悔の念に苛まされるので、あらかじめ使用時間を決めておくことにした。
パークソンまで歩いていくこともあれば、バスに乗って移動することもあった。中国の交通マナーの悪さはよく話題にされることだが、ウルムチは特にひどい。むやみにクラクションを鳴らしたり、車間を異常に詰めたり、スピードを出したり、横断歩道を確認せずに右左折したりする車が溢れ返っていた。これを歩行者側から見るとかなりの恐怖で、青信号を渡っている時にはねられそうになったのは一度や二度ではない。右折車(日本でいうところの左折車)はまだ目視で確認できるからいい。だが左折車は遠くから猛スピードで突っ込んでくるので、よけ切れない。ドライバーのマインドに歩行者確認という概念が存在しないのだ。それならまだ赤信号の方が、左右の流れだけ確認すればよいのでより安全だ。というわけで、青信号で止まり赤信号で渡る習慣が身に着いた。

夕食はほぼ毎日、新疆飯店を少し東に入った大箱レストランで拌面という新疆独特の麺料理を食べていた。店に入り席に座るとまず持ってきてくれるのは、羅布麻茶という、これもまた新疆特産のお茶である。最初はクセが強くて抵抗があったが、カフェインフリーなおかげで慣れるとガブガブ飲めるようになった。時にはやかん一杯のお茶を飲み干す時もあったほどだ。夏の新疆は酷暑と乾燥が、おそろしいほど早く脱水を進行させる。そのため、とかく水分補給を怠らないことだ。拌面は讃岐うどん並みにコシがあり、そして上に載っている温かい具も、独特の酸味とスパイスが効いて旨い。毎日食べても飽きることがなく、昼頃には早く夕方にならないかなと待ち遠しくて仕方なかった。肉が多い目の贅沢な具を選んでも13元。拌面を食べるためだけに新疆に行ってもいいと思うことが今でもある。

ウルムチは北京時間に合わせているので日が沈むのが遅く、夜の11時ころまで外は明るかった。5時に拌面を食べた後、少し涼しくなる街をぶらっとする。夜が長いと心が弾む。ゆっくり読書したり、クッキーを食べたり、インスタントコーヒーを飲んだりして時間を過ごしてもなお日が沈まない。こういう時間を持てるのであればサマータイムもいいなと思う。だが日本でそれを導入するのはどうだろう?日が高いうちに大手を振って退勤出来るサラリーマンが、どれくらいいるであろうか?そこへ保育園のみがサマータイムを遵守したらどうなる?会社は最低18時までいないといけないのに、保育園は16時で終わるという阿鼻叫喚の地獄絵図が目に見えるようだ。しかも出勤時間だけ1時間早まりうつ病が増加しそうだ。もしサマータイムを3年間実験的に導入した場合、離婚件数が有意に上昇しないことを強く祈る。
もう、どう働くかについての議論は、いったん時間からのアプローチをやめて、生産性が高く快適な職場環境のあり方から検討してはどうだろう?まず国家公務員と上場企業の社員を対象に、職場環境の快適性について調査し、改善点を洗い出す。目標は当然、官庁の快適性スコアが民間企業の平均を上回ることだ。なお、質問には「こういうアンケートは意味がないと思うか?」を含めて、職場環境のあり方への関心の低さも見るようにしてほしい。別に仕事が好きなら長時間没頭しても構わないだろう。だが仕事が嫌いだと考えるホワイトカラーが多ければ、それは問題だ。


ウルムチでは規則的な生活のおかげで体調はすこぶる良かった。精神的にも不思議なほど安定していた。生活は出来るだけルーチン化したほうがいい。自由であればあるほど、規律を持つことの重要性が身にしみて感じられる。早起きは三文の得、夜更かしは鬱の始まり、だ。