こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア11 ウルムチ カザフビザ編

2011年7月7日

中央アジア・ビザ地獄の洗礼を初めて浴びたのはウルムチだった。僕は隣国カザフスタンのビザを取るために、カザフスタン鉄道事務所という所に来ていた。これまでビザと言ってもカンボジアのアライバルビザくらいしか取ったことがなく、いわばこれが事実上初めてのビザ取得経験となった。

ウルムチにはカザフスタン大使館や領事館がなく、鉄道事務所がかわりにビザ業務を担っている。この鉄道事務所は街のかなり北の方にあって、どのガイドブックでも地図外ではあるが、近くにまで来ると間違いなくそこだと分かる。ウルムチ一番の人だかりができているからだ。
ここでは、常に100人を超える人がこの建物を取り囲んでいる。彼らが何を目的としているのかは分からないが、建物の中から職員が現れると一斉に鉄の柵に殺到し、手を挙げ大声で叫ぶ。すると職員が、その中から数人を選び、施設の中に入れるというシステムだ。
僕も人混みに紛れて、見よう見まねでこの「命のビザ」争奪戦を繰り広げていた。だが一向に指名される気配がなく、声が枯れてしまい、諦めて戦線を離脱することにした。かわりに門番にそっと「日本人だがビザが欲しい」と告げると、すんなりと中に入ることが出来た。
ビザ取得の手続き自体には特に煩雑なものはない。だが日数がかかる。7月4日(月)に申請をして、受け取ることが出来るのは8日の金曜日だ。誤算だったのは、その間パスポートを預ける必要があることだった。

パスポートがないことで最も困るのは、両替が出来ない事だ。この時、僕はもっぱらトラベラーズチェックを持参していた。今はトラベラーズチェックと聞いても知らない人が殆どだろうから、ちょっと説明しておく。トラベラーズチェックには2か所サインする場所があり、購入後すぐにうち一か所にサインをしておく。そして両替する時に、銀行員の目の前で二か所目にサインを記入する。こうしてサインの一致を確認することで、盗難された時の不正使用を防ぐ仕組みになっている。
さて、中国でのトラベラーズチェックの両替は以下のような手順で行う。パスポートとトラベラーズチェックと申請用紙(結構色々記載欄がある)を、まず提出する。申請用紙には名前や泊まっているホテル、パスポート番号などを記入する。トラベラーズチェックを受け取った銀行員は、このトラベラーズチェックが有効なものかどうかの確認を電話で行う。問題がなければその日のレートに基づいて現金が支払われる。あとは受領のサインをすれば完了だ。
ただトラベラーズチェックの扱いに慣れない銀行員の場合、認証のところでかなりの時間を食う。長い場合だと30分くらいかかることもある。この銀行側にとっての煩瑣な事務手続きが、トラベラーズチェック廃止になった大きな理由だろう。作業コストを利用者が負担する仕組みでない以上、やむを得ないのかなと思う。ただクレジットカードは使用状況の即時的把握がしにくく、不正使用・スキミング・上限額などの心配もある。盗難の心配をしないで済み、残高管理が容易なトラベラーズチェックには、それなりの便利さがあった。

さて月曜日にパスポートを預けてからの5日間は、残金だけで生活するという想定外の事態が待ち受けていたので、家計簿を付けるのが苦手な僕は往生した。だいたい支出を管理するのが苦手なのだ。コーヒーやジュースやお菓子など、計算に入れていない出費がかさみ、みるみるお金は減っていった。8日にビザを受け取った時、財布に残っていたのはわずか5角札1枚だった。中国でもさすがに6円ではバスすら乗ることができず、灼熱のウルムチを、はるか北のカザフスタン領事館から南の新疆飯店まで2時間かけて歩いて戻ったのだった。

そのご褒美でもないが、現金を得た後、僕はマッサージに行った。「足浴(ズーユー)」というのが、おそらく中国での標準的な按摩屋になると思う。湯を張った桶に足をつけて、足の血の巡りが亢進するのを待つ間、頭、首、おでこ、肩をマッサージし、後半いよいよ足つぼマッサージに入る。最後はリクライニングを完全に倒してうつぶせになり、熱い枕を腰に当てつつ肩、背中、腰のマッサージしていく。このフルコースのマッサージに、お茶と靴下のサービスが付いて1時間たったの66元(800円)だ。終わった後は全身の血流が良くなり、すごく体が軽くなった感じがする。中国足浴で一番特徴的だと思うのが、おでこをしっかりマッサージすることだ。額が意外に凝りやすい部位だということを気付かされた。