こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

ベトナム縦断20 ダナン

2011年3月4日

ダナンとホイアンの結ぶ循環バスはトリッキーだ。事前に乗車券を買うこともできず、領収書も出ない。「定価」は7kDのはずなのだが往路では30kD取られた。別に30円でも120円でも構わないのだけれども、もう一度「定価」で乗れるかどうか試してみたかった。ただいくらこちらが7000ドンだと主張しても証拠がない。相手に定価が3万ドンだと開き直られては、手の打ちようがない。そこが決定的に弱い点だ。
さてホイアンのバス停へはホテルから徒歩5分で到着した。小屋のような休憩所でバスを待つことにした。小屋の中に入ろうとすると、なんと循環バスの値段が書かれた紙が貼られているではないか。それを解読すると10㎞までが4kドン、10㎞から25㎞が7kドン、それ以上は10kドン。つまりダナンまでは10kドンが定価だったのだ。
この掲示を写真に収めバスに乗った。動かぬ証拠を掴んだ以上はこちらに分がある。乗車してまもなく車掌のおじいさんが運賃の回収にやってきた。
「20kDだよ」
往路の30kDより安いので肩透かしを食らった。しかし定価は半額の10kDだ。証拠は握っている。僕は、待ってましたとばかりにさっき撮った写真を見せた。そして強い口調で「10kD!」と反撃した。ところがおじいさんは、写真をのぞき込むと困った眉をして首を振った。そしてもう一度「20kD」と静かに言った。しかしそれで引き下がるわけにはいかない。こちらももう一度10kDと主張した。ただ、今度はちょっと弱い口調で。するとそれからおじいさんは黙りこくってしまった。傍らで立ちすくむおじいさんを見ていると、小さな罪悪感にかられる。数年の間に値上がりして今は本当に20kDなのかもしれない。地元民も間違いなく20kD払っていたのをこの目で確認した。これ以上おじさんを困らせるのも良くないし、20kD払うことにした。
本当の値段は結局分からずじまいだった。往路と復路で値段が違うし、掲示された料金でもないし、どこに「本当の値段」があるのだろう。もやもやした気分が晴れないままダナンに着いた。


さてダナンの宿探しだ。ホイアンが窓のない狭い部屋だったので、ちょっとした贅沢をしたい気分だった。
1軒目Bao Ngoc Hotel。部屋は広くベッドはキングサイズ。ふかふかの絨毯が気持ちいい。カーテンも重厚で上品な柄だ。そして何より、床から天井近くまである格子窓の付いた大きな二重扉が気に入った。この二重扉を開けると小さなベランダに続いているのがいい。きれいに磨かれたタイルのバスルームは大きなバスタブ付きだ。いいことずくめなのだが、20ドルと大台に乗ってしまうのが難点だ。
2軒目を当たった。Xuan Hung Hotel。やや狭い。380kD、つまり19ドル。僕がうーんという顔をすると、表情を察知して350kDに値引きするし、今なら朝食も付けるよと提案してきた。贅沢ではないにせよ、こちらも十分な広さはある。17.5ドルで食事付き。ホイアンを考えると十分すぎる条件だ。
しかしいかんせん、心は1軒目に惹かれていた。だが20ドルに乗ってしまうのが引っかかる。その点だけ自分の中で言い訳が出来ないでいた。ならばこうすればいいのだ。もし18ドルまで下がれば第一希望のBao Ngoc、下がらなければXuan Hungにする。あとから文句を付けるのはなし。そう決めてBao Ngocへ戻った。

「いくらか安くして頂けませんか?」
どきどきしながら返事を待った。それによって、ここに泊まれるかどうかが決まるのだ。
レセプションの女性は僕の心を見透かすかのように落ち着いた口調でこう言った。
「18ドル」
よし。僕は笑って即答した。まさしく想定した通りの額だったので、つい笑ってしまったのだ。でも良かった。もし値引きがなくて2軒目の宿に決めていたならば、ここに泊まれなかったことを後悔したに違いないだろう。ちなみに当時の1ドルは80円ほどだから、1440円くらいとそこまで高いホテルではない。円高は旅行者の味方である。

ランチは、ターメリックライスに鶏と豚を載せたものを食べた。具の上にかかっているニョクマムやエビ風味の何かが複雑に絡み合ったソースがたまらなく旨い。こういう何でもない料理が感激するほど美味しいのが、ベトナムを旅する楽しみの一つでもある。
さてダナン自体には観光する対象はさほどない。チャム彫刻美術館(30kD)で改めてチャンパ王国の砂岩彫刻を鑑賞したのちに、サイゴンへの列車の予約をすることにした。SE3は売り切れでSE1にしたのだが、このSE1はサイゴン到着がなんと早朝4時だ。あまり考えないようにしよう。
用事を済ませた後は、元を取るくらいのつもりで部屋から一歩も出ずぼーっと横になっていた。
日が沈んでから夕食をとりに外に出た。ダナンの夜は刺激的だ。オープンカフェから重低音のクラブ音楽が大音量で流れている。近接した店でこれをやられると大音量がリズムの異なる不協和音を奏でて耳の中で軋みを立てる。街の男の子たちも、ちょっと悪そうなイケメンが多かった。
町の北側エリアの一角に大箱の海鮮レストランがいくつかあるのだが、いわゆるバドワイザーガールがずらっと並んで壮観だ。おじさん達は好きだろうな。もちろんそんな店に一人で入る勇気はない。近くの屋台で軽くチャーハンを食べて宿に戻った。
ここはお世辞にも上品な街とは言えなさそうだ。同じ港町でも、北のハイフォンが品行方正なお兄さんとすれば、ダナンはさしずめ奔放な弟といったところだろうか。街の雰囲気は時代が変わっても変わらない、と思う。