こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

カンボジア19 バンコクへ 2011年3月31日

2011年3月31日

朝5時に外に出たが、町は真っ暗で完全に寝静まっていた。かろうじて市場には、暗闇の中、かすかに人の気配が感じられた。シソポンの朝は遅い。いやカンボジア自体がベトナムと比べて、遅起きなのだ。今更ながら生活習慣の違いをつくづく感じていた。

今日はいよいよタイのバンコクを目指す。ただ、シソポンから直通のバスは見つからないので、国境で乗り換える必要がありそうだ。費用と時間がどれくらいかかるのかについてはよく分からない。例えばバンコクからシェムリアップへのツーリストバスだと、10時間から14時間かかるらしい。だから、シェムリアップ-シソポンの2時間を引いた8時間から12時間が所要時間ということか。朝9時に出発して夜9時到着。随分な長旅である。費用の計算は面倒なのでやらない。だが現在の所持金が20ドルしかないことを、この時すっかり忘れていた。

まずは国境の街ポイペトを目指す。安く上げるならバスだが、所要時間12時間というのが頭に大きくのしかかっていて、早く着きたい一心でシェアタクシーを利用した。相場は1台15ドルで、それを6人で頭割りして2.5ドルになる。ところが客が全く集まらず、プライベートタクシーになってしまった。考えてみれば、バスで普通に行ける路線を、わざわざタクシーで移動する客はカンボジアにはいない。今からでもバスに切り替えようか?いやいや、それより出来るだけ早く着くことを優先しよう。僕の中で急ぐ気持ちが勝っていたため、やはりタクシーで行くことにした。ただこれではいきなり15ドルの大出費になってしまう。そこを何とかお願いして10ドルまでまけてもらった。このタクシー移動が誤算の始まりだった。


ポイペトまでは快適な道を飛ばして40分で着いた。出国は荷物検査も手続きも出国税もないストレスフリーなイミグレだった。カンボジア側ゲートを抜けると、タイ国境までの間にあるノーマンズランドに、巨大なカジノゾーンが広がっている。そして早朝だと言うのに人がぞろぞろと歩いている。みなタイ側へと流れていくところを見ると、彼らはカジノ帰りのタイ人だろうか。誰一人荷物を持っていないのを不審に思ったが、すぐ後ろに台車に大量のスーツケースを乗せて運ぶ荷役作業員がいる。つまりみんなツアー旅行で来ているのだ。意外なことに、おじさん、おばさん、家屋連れが客の殆どを占めていた。これはちょっと僕には違和感のある光景だった。そもそも家族でカジノに行くこと自体、日本では馴染みがない。だがギャンブルと旅行という非日常の相性は、案外いいのかもしれない。そう考えると、ギャンブルをしない僕でも行きたくなるカジノは、日本ならやはり沖縄になるのだろうか?リゾートの夜をカジノで過ごすということなら、まだ抵抗感なくできそうである。ここで食の充実はマストだ。スシ・ラーメン・テンプラのフードコート、デパート、ドラッグストア、ヨドバシカメラが一体となったコンプレックスがあれば、外国人観光客も呼べるかもしれない。個人的には、フードコートに一風堂と勝牛とスシローとお好み焼き屋と超高級焼き肉店は入れてほしい。あとハイディーラオの火鍋もあると中国人の胃袋を掴めそうだ。もっとも、そこまでするともうどこの国だか分からなくなってしまいそうだが。


何事もなくすんなりとタイに入国を果たしたのは良かったものの、ここに両替所はなかった。アランヤプラテートの町は国境から数㎞離れており、ローカルバスに乗ろうにもタイバーツがないのだ。そこで近くのバス会社のオフィスに入り、10ドルをバーツに両替してもらうことと、バンコクまでのチケットを依頼することにした。10時にやって来た女社長は、喜んでこれを快諾した。彼女は10ドルを300バーツに替え、そして250バーツのバスチケット分を差し引いて50バーツを僕に渡した。少しばかりぼられている。ちょっとこの時点で、バンコクの宿まで辿り着けるか不安がよぎり始めた。

やがてやって来たのは立派なエアコンバスだった。乗り込むと間もなくバスは出発した。バスはアスファルトで舗装された道を、振動もなく滑るように走り出した。この時僕は感動した。先進国にやってきたという実感を強くしたのだ。
バスは途中スワンナプーム空港を横目に見ながら、4時間かかってエカマイバスターミナルに到着した。僕の目指す宿は、鉄道駅終点のファランポーン駅にある。土地勘は全くなかったが、案内図を見ると高架鉄道BTSとメトロを乗り継いで行くようだ。まずBTSの構内へと上がった。BTSカンボジアからタイムスリップしたくらい、近代的かつ清潔だった。乗客たちの格好も都会的で洗練されている。髭剃りをせず、水シャワーで適当に済まし、埃まみれのバックパックを担いだ僕は明らかに浮いていた。恥ずかしくなって、人の視線を避けるように隅に立ち、下を向いてやり過ごした。BTSとMRTは合わせて46バーツかかった。つまり残金は4バーツ=約12円となった。こうして、なんとかぎりぎりバンコクファランポーン駅に辿り着いたのである。

しかし予想より早い到着だった。実際のバス乗車時間は合計5時間弱だし、国境通過もスムーズだった。かつてのバンコク-シェムリアップのツアーバスの14時間というのが、詐欺的に時間がかかり過ぎだったのだ。もし今シェムリアップからバンコクまで安く移動するなら、アランヤプラテートまでをバスで、そこからバンコクまで鉄道というのもありだ。細かい下調べが必要なのは言うまでもないが、ポイペトはもう魔窟ではないから自由に移動手段を考えればいい。

さて宿に荷物を置いてすぐ昼飯にでかけた。駅から西へと歩く。チャイナタウンを通り過ぎてインド人街へとやってきた。今日はインド料理と決めていたのだ。ロイヤルインディアでチキンマサラを食べた。辛くて旨かった。ただ正直なことを言うと、シェムリアップのチキンティッカマサラの方が僕の好みだった。今でもあれをもう一度食べてみたいと思う時がある。

その後、宿へ戻り昼寝した。だが都会の刺激に心が浮足立って、なかなか眠れなかった。夜に再び中華街に出た。ネオンの看板の光量が眩しく圧倒的だった。ここに慣れてしまうと脱出できなくなる。そう直感した僕は明日バンコクを発つことに決めた。