こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

カンボジア16 シェムリアップ

2011年3月27日

シェムリアップまでバスで帰ってきた。アンロンウェンは2泊しただけだったが、すごく久しぶりに戻ってきたような感覚がする。そして暑い。前と同じ宿にチェックインを済ませた。ここのスタッフ、と言っても前回僕はほとんど喋ってないのだけど、この若い彼がどこに行ってきたの?とニコニコしながら聞いてきた。流暢な日本語を話すので感心する。プレアビヒアだよと答えると、「やっぱりね〜」と言ってきた。宿の誰にも話した記憶がないのにどうして知っているのだろう?
アンロンウェンも行ってきたよと続けると、両手を合わせて「タモックさん!」とお辞儀をした。わざわざタモックさんとさん付けするのが気になったが、それ以上深入りしないことにした。政治的立場を尋ねるのはタブーである気がしたからだ。人懐っこく陽気な彼だが、無邪気な瞳の奥で意外とよく人を観察しているのかもしれない。

もうアンコールワットの観光に出る元気はなく、シェムリアップの街で、インド料理を食べたり、コーヒーをしたりして過ごしていた。
この旧市街入口近くのインド料理屋は何度か通った。チキンティッカマサラが本当に絶品だった。うまいうまいとつぶやきながら食べていると、店のオーナーに「どこで働いているんだ?」と聞かれたことがあった。僕が旅行者には見えなかったのだろう。たしかに世界遺産アンコールワットの町にいながら観光もせずに毎日インド料理を食べに来るのは変だ。「旅行者だよ」と答えると、ばつの悪そうな表情をして奥へ戻っていった。
泊まっていた宿は若い宿だった。どこの遺跡が良かったとか、夕陽がきれいだったよという話題でわいわい盛り上がっている。若い彼らと同じ感情のレベルを保って会話の輪に入るのは難しい。そういう感激が薄れている時点で、僕はもはや良い旅行者でないのかもしれない。
この宿がエアコン・ホットシャワー、朝夕2食付きで9ドルなのは無条件ではない。一つはここのツアーに参加する引き換えで、もう一つは無償ボランティアに対する住まいを提供するという意味合いである。どちらもしていない僕は文字通り穀潰しのような存在だった。黙々とご飯を食べ、お代わりだけは毎回しっかり頂いて、昼になると観光するわけでもなく町で時間を潰している。何をしにこの町にいるのだと言われたら反論の余地はない。

ただ、1か月を超えて旅をしていると休みたくなる時もある。そういう気分の時に、たまたまこのホテルに出会ったということだ。だから決して他の旅行者に同じような過ごし方を勧めている訳ではない。それにこの宿は今同じサービスを同じ値段で提供していない。6年前とは言えいくら何でも9ドルは安すぎる。当時を知る人ならホテルの名前がピンと来るだろうが、今は似たような条件を血眼になって探しても見つからないはずだ。しかしほんの20年前、シェムリアップのドミトリーは1ドルだったことを思い起こす必要がある。インフレと言うより妥当な価格に近づいたというのが適切であろう。こう言うと1日2ドルで暮らせた頃を羨む人があるかもしれないが、その代わり昔は行き場のない長期滞在者が多く、お互いへの誹謗中傷が絶えなかった。ネット上がほぼ悪口で埋め尽くされていた頃を考えると、今はいい時代だ。個人ブログが主たる情報発信手段となっていくにつれ、炎上しやすい掲示板は下火となっていったのである。