中央アジア46 ビビファティマの泉 ワハーン回廊
山を下りてウラングという村に向かった。ここには4世紀に建造されたピラミッド型の仏塔が残っている。「旅行人ノート」では、これを仏塔ではなくゾロアスター教の祭壇跡としている。とすると、仏塔の頂上に置かれた「ブッダの足形」は違う解釈になるだろう。ネットで調べてみると、岡山県の熊山遺跡がこの仏塔に酷似しているという指摘もあるようだ。両者を結び付けるには地理的に離れすぎているが、想像を逞しく働かせるのも悪くない。意外と本当に関連があるかもしれないのだ。
ワハーン回廊に来れば是非ともヤムチュン村にあるビビ・ファティーマの泉は訪れておきたい。ビビ・ファティーマとは村を登ったところにある洞窟温泉である。洞窟の中に大量の湯が流れ込む源泉かけ流しの温泉である。お湯の量も温度も申し分ないし、打たせ湯もあれば飲むこともできる。効能については、子宝に恵まれるとか目が良くなるなどの言い伝えがあるらしい。まあ何の病気に効くかはどうでもいい。長らくシャワーすら浴びていなかった僕にとっては、たっぷりの湯に浸かれる温泉はただただ天国のようだった。おかげで調子に乗って長風呂をしてしまい、汗をかきすぎて脱水で立ちくらみを起こしたのだった。風呂上りには、回復のために売店の牛乳を2パック一気飲みした。最高だ。ここから眺める対岸のヒンドゥクシュ山脈も悪くない。露天風呂があれば言うことなしだが、我儘はほどほどにしておこう。それにしても一体誰がこの桃源郷に温泉を作るという着想を思いついたのだろうか。
さて、ワハーン回廊の宿は基本的にホームステイである。この地域の一見簡素な住居は、必ず三つの特徴を備えている。それが、5つの柱・2つの大きな梁・三角隅持送り(ラテルネンデッケ)天井である。5つの柱はそれぞれ、預言者ムハンマド、シーア派の初代イマームであるアリー、アリーの妻ビビ・ファティーマ、息子ハッサン、フセインの象徴だ。そしてムハンマドの柱とアリーの柱に架かる梁は普遍的真理、対側の梁は普遍的魂を現す。ここでラテルネンデッケの天井とは、正方形を45度ずつ回転し0.7倍に縮小して積み上げた様式のものを言う。ワハーンでは積み上げる天井の数は4つと決まっており、下から土・水・空・火とゾロアスター教の4要素に対応しているそうだ。部屋は十分広く、3人でシェアするには勿体ないくらいだった。