こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

中央アジア4 ウルムチ

2011年6月25日 

ウルムチに到着した夜から下痢と嘔吐が始まった。自分の中で原因は、はっきりしている。間違いなく暑さによる疲労と脱水だ。宿探しで彷徨っている時から何となく兆候はあった。4か月旅をしているから、その辺りの感覚については鋭敏になっている。こういう時はいつも決まって、ある特徴的な身体の違和感が現れるのだ。この体からの警告を無視し続けると嘔吐と下痢が始まり、強制的に旅を停止させようとする。
ウルムチは酷暑だった。しかも空気が異常に乾燥している。2時間街中を歩いている間に相当汗をかいたはずだ。慣れない暑さと脱水は要注意だ。実はずっと体の警告音が聞こえていた。しかし新疆飯店に着いて警告音が少し弱くなった。まだ体力的に余裕があると思い込んだ僕は、休息せずに街に出てしまったのだ。


それは激しい嘔吐だった。胃の中の内容物をすべて吐き出してもなお、えづきが止まらない。下痢は最初、形のある軟らかい便だったが、やがて水様便に変わっていった。血便でないのは不幸中の幸いだった。こんなところで病原性の高い大腸菌にやられたら、たまったものではない。水分補給をしようにも、水を少量飲むだけで、それが呼び水となって嘔吐がまた始まる。やむなく何も食べず何も飲まずで、じっとベッドで横になっていた。エアコンのない部屋は暑くて苦しい。天井を仰ぎながら、ただひたすら嵐が過ぎ去るのを祈った。

長い夜を越え朝を迎えると、ほんのわずかであるが苦しさがマシになっていた。ホテル1階の売店でスポーツドリンクを買い、おそるおそる口を付けてみた。大丈夫だ。嘔吐は起こらない。僕は慎重にゆっくり少量を口に含み、嚥下を繰り返し、500mlを飲みきった。水分摂取が出来たせいか、少し気分は楽になり、まどろみの感覚が甦る。熟睡は無理としても、うとうとする事は出来る。すると浅い眠りの中に夢を見た。ハッとなってふと目を開けると、遠くに高い天井が見える。自分は今どこにいるのだろうか?我に返って新疆ウイグル自治区ウルムチだと自分に言い聞かせる。しかしすぐに忘れてしまい、またまどろみの中でここはどこだろう?と自問自答している自分がいる。この自分とのやり取りが面倒になり、夢と現実が混じりあうのに抗しきれず身を任せた。

夕方までまどろんでいただろうか?嘔吐は止まっていた。下痢は続くが、切迫感はない。昨日買っていた菓子パンと牛乳を口にするも、問題なさそうだ。しかし体がだるくて外に出る気力がない。今日は完全に休養だ。
寝転んでガイドブックを読んでみた。しかしここから先に進む気が全く起こらない。すぐにガイドブックを閉じた。もう日本に帰りたいと思う。鄙びたところでのんびりしたい。美味しいご飯を食べて温泉にゆっくり浸かりたい。とにかく安楽に過ごしたい。嗚呼、こんな気持ちで旅を続けることが出来るだろうか?過酷なシルクロードが待っていると思うだけで、不安が満ちてくる。他にもいろんな気がかりが頭から離れない。
しかし帰るという選択肢はないのだ。