こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

カンボジア11 シェムリアップ

2011年3月24日

アンコール遺跡を何日かけて回るか?
これはシェムリアップに着いた旅行者が最初に直面する問題である。アンコール遺跡は1日券、3日券、7日券の3種類のチケットが用意されている。もし7日券を選んだ場合、連続した7日ではなく任意の7日間観光ができる。非常に悩ましいところだが、もしアンコール遺跡が初めてなら無駄になることを覚悟で7日券を買うことをお勧めしたい。

あなたにとって初めてのアンコール遺跡であれば、おそらくアンコールワット以外は聞いたことがないだろうが、実はかなり広大で遺跡の数も非常に多い。地球の歩き方に載っているものだけで30以上ある。規模はまちまちだが、どれも違う味わいがある。

まずアンコールワットからして一筋縄ではいかないのである。有名なのはガイドブックによく出てくる3連の塔だが、あれはあくまで遠景であって見え方のほんの一部に過ぎない。第一回廊、第二回廊、第三回廊の三層構造からなるアンコールワットは立つ位置によって姿を変えていき、様々な視覚効果をもたらすように設計されている。それを一度で全て把握するのは困難である。
壁に近づいてみると、今度は回廊や扉に施された彫刻が目に入るだろう。回廊一面に広がる壮大なレリーフは、史実をモチーフにしたものであったり、地獄や入海撹拌を描いた宗教絵画であったりする。これらは単なる静止画ではなく、物語を表現した絵巻である。重複や反復の多い独特の様式だが、ここでは何よりも無窮動さが重視されている。
また日の出に合わせて訪れるのは定番となっている。メコンの国々は夕焼けよりも朝焼けが鮮やかに映える。ある時は塔から顔を出した眩しいオレンジの光が池の鏡に反射し二重の像を作り出し、またある時は空全体がピンクに染まりアンコールを包む。西向きに建てられたアンコールワットが、東の地平線から上がる太陽ときれいに重なるのはおそらく偶然ではない。彼らの方角に対する強いこだわりは全ての遺跡に一貫して見られるものだからだ。
アンコールワットに続いてバイヨン、象のテラス、癩王のテラスと見ていくわけだが、次第に混乱と疲労が体に忍び寄っている頃だろう。忘れてはならないのは、クーラーが効いた休憩所があちらこちらにある訳ではないことだ。体験したことのない暑さと喉の渇きが思考と感情を麻痺させる。この状態で次の遺跡に進んでいくと次第に苦行と変わっていくはずである。新たな石組みがどれも同じに見えてきて、違いに無頓着になってきたらそれはキャパオーバーの信号だから、撤退した方がいい。苦痛な思い出と体調不良しか残らないからである。人が受容できる情報量には限りがある。
郊外で外せないのはバンテアイスレイとベンメリアだ。ただしベンメリアは別料金である。これらは初日ではなく、別に日程を設けて行く方がいい。それから毎日遺跡ばかりでなく、たまには何もしない休養日や思い切って西バライという池まで泳ぎに行く日があってもいい。水が汚いとは言ってもメコン川よりはきれいだし、地元の人は泳いでいる。こうしてリフレッシュすると、またもう一度アンコールワットに行ってみたい気分に駆られるだろう。その時は知識が整理されて、また違う視点で見られるようになっているだろうし、他の遺跡も自分自身の切り口で味わえるだろう。なにもたくさん回る必要はない。気になった所だけ自転車でふらっと立ち寄るのもありだ。
何日か滞在しているうちに気の合う人が現れることもある。その時は、また一緒に出掛ければいいのだ。同じ遺跡に二回行ってはならないというルールはどこにもない。この時チケットを使い果たしていると、折角の出会いを無駄にする。アンコールワットのガイド代は、日本の居酒屋で発泡酒と出来合い料理を放り込む2時間より安いことを忘れてはならない。
シェムリアップメコンの国で最も時間を費やすべき町であり、バンコクホーチミンで過ごす日を削ってでも滞在日数を確保した方がいい。

でお前はどうかって?
その辺の流しのバイクタクシーに声を掛けて、アンコールワット、アンコールトム、プノンバケン、プレアカーン、東メボン、プラサットクラバン、タプローム、タケオ、バンテアイスレイを一日で回った。だからそれだけは止めておくように強く主張したい。