こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

カンボジア1 カンポート

2011年3月15日

いよいよ出国の日を迎えた。どれくらいベトナムに滞在したのか日記で確認すると、1か月になることが分かって驚いた。当初警戒心しか抱いていなかったベトナムが、これほど自分に溶け込んでくるとは思いもしなかった。美味しい食べ物、快適な宿、商魂逞しいセーオムのおじさん。すべては今の僕にとってなくてはならない存在となっている。ベトナムを離れることに対して日本を出る時以上の緊張感を覚えていた。ようやく馴染んだ生活様式を捨てることが怖かった。少し長く居すぎたのかもしれない。
ベトナム最後の朝食はフォーボーにした。これでフォーボーよりもフォーガーが好きだということに最後に気が付いた。この1か月、無意識にフォーガーばかり食べていた気がする。これはというフォーボーの名店に出会えなかったのが心残りである。しかしまたベトナムを訪問する言い訳ができた。
宿へ戻り、ココナッツジュースを飲んで一休みしてから荷物をまとめチェックアウトした。なおサボンは寝ている間に見事にアリの餌食になっていた。

ハティエンからカンボジア側の町カンポートを結ぶツアーバスはあったのだが、国境越えに時間がかかりそうだったのでバイクタクシーを乗り継ぐことにした。まず国境までのセーオムを拾う。タックドンまでと同じ30kD(120円)。10分ほどで国境に着いた。東興-モンカイ国境と比べて交通量が著しく少なく、非常に簡素な国境だった。イミグレと言っても小さな詰所があるだけ、商店もパラソルを立てた簡易商店が数軒あるくらい。ベトナム出国は何も見ずにスタンプを押して終わった。ちなみに今回、出国税は要求されなかった。じゃあラオバオで払った10kDは一体何だったのだろう?
ベトナム側ゲートを境に舗装路が終わる。そこへ突如としてhatien vegasという9階建ての立派なカジノが現れる。火曜の午前だというのに大盛況だった。ここだけ別の国のようだ。しかし写真を撮ろうとすると背の高い男が現れて、外につまみ出された。
カンボジアビザはその場で即発給された。20ドルで追加手数料もなければ賄賂の要求もなし。全体にのんびりした国境だった。
国境からカンポートまではだいたい40kmほど。横浜から東京までに相当する。公共バスはなく待機していたバイクタクシーに声を掛けた。吹っ掛けてくるかと思いきや、想定していた通りの10ドルだったので肩透かしを食らった。一応値切って9ドルになった。走り出して、風景が一変したので驚いた。道は舗装されておらず、木が少なく赤土がむき出しだった。しばらく過ぎると日本では殆ど見なくなった塩田が拡がる。傍らにぽつんと粗末な掘っ立て小屋が立っていた。昔ながらの風景が残る。この地域には近代化の波がまだ到達していないようだった。とんでもない所に来てしまったと不安と恐れが頭をよぎった。20分ほどで舗装路に合流した時は本当にほっとした。
カンポートへは国境から1時間で到着した。僕はカンボジアのガイドブックを持っておらず、カンポートという町について全く情報を持っていなかったので、とりあえずバスターミナルで降ろしてもらうことにした。しかしバスターミナルにも地図やインフォメーションはなく、新たに分かったことは特になかった。ひとまず併設のレストランで食事をしていた。カンポートは中継地なので、今日眠れるところと明日のバスの手配ができればそれでいい。
パンケーキにハチミツをかけて食べていると、隣のお兄さんに話し掛けられた。客引きに来て、次のバスが到着するまでの合間にお茶休憩しているところだった。彼のゲストハウスはトイレ・シャワー付きが5ドル、共有で4ドルだと言う。ベトナム水準でいくとかなり安いので、バイクで連れて行ってもらうことにした。連れてきてもらってまでノーが言えるほど僕は強い人間ではない。部屋を見ずにシャワー・トイレ付5ドルにした。ただ着いた瞬間軽く後悔した。ここはゲストハウスと言うより民家の間借りだ。トイレ付きだが、部屋の角を壁で囲ってこしらえたものなので臭いがこもる。これ、風水的にどうなんだろう?シャワーは水シャワーのみで水圧も頼りない。これならまだトイレ・シャワー共有の方が良かった。今日は寝るだけだからと自分に言い聞かせた。
自転車を借りて町に出た。ホテルの周囲はバラック造りの建物が続くが、しばらく南に走ると雰囲気の異なるエリアに辿り着く。壁の黒ずみが目立つ西洋風の建物が並び、至るところに木が植えられ色とりどりの花を咲かせている。小さなシャンゼリゼ通りを模したような、かつての寂れたメインストリートも残る。町の西側には幅200メートルほどの大きな川が流れ、川沿いは遊歩道として整備され立派な街路樹が植えられている。フランス植民地時代の面影が漂う愛らしい町だ。人はまばらで静かだった。カンポート周辺は、かつて世界で最高品質の胡椒の産地として有名だったそうだが、近くに胡椒農園は見かけなかった。
川沿いのカフェでココナッツシェイクを頼んだ。2.75ドル。思わず、高い!と叫んだ。ベトナムドンに換算すると55kD。フォーが3杯食べられる計算だ。地元民がこのカフェに来るとは考えにくく、外国人旅行者が実は多い町なのかもしれない。だが理由は分からず、頭をひねりながらシェークを啜った。

さて明日の朝に早速この町を発つ。首都プノンペンへの移動だ。バスは安いところでは2.5ドルで売られていたが、ホテルの兄ちゃんにバスターミナルへの送迎を付けるからと勧められ、気まずさも手伝って4ドルで購入した。

自転車で部屋に戻ってきた。暑くて疲れた。軽い嘔気がする。1階の部屋は風通しが悪くて気が滅入る。ハティエンのペントハウスが懐かしい。少し昼寝をしてからまた川沿いのレストランに赴いた。ボロネーゼと瓶ビールで5.5ドル。やっぱりなんだかツーリスティックな値段だなあと呟いてしまった。部屋へすぐ戻る気になれず近くの盲人按摩(4ドル)で時間を潰してから戻った。これはとても上手だった。マッサージは自分へのご褒美だとよく分からない言い訳を唱えていた。
全体的に町の人々の動きがゆっくりで、時の流れが急に緩やかになった感じがする。早く自分もこのペースに合わせないといけないと思った。しかし、ベトナムに戻りたい、とつい弱音が出るのだった。