こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

ベトナム縦断12 フエへ メコン編 2011年2月26日 

2011年2月26日

早朝、目を覚ますと窓の外は明るく、生い茂る木々に日が差していた。少し開いた窓から入ってくる風が生暖かい。いよいよ東南アジアへやって来たという実感が湧いてくると同時に、はやる気持ちで鼓動が早くなるのが自分でもわかった。
予定到着時間から30分遅れの10時半、フエに到着した。駅を出ると雲一つない一面の青空で、久しぶりの太陽が眩しかった。駅前には沢山の客引きが待ち構えていて、乗客達が駅から出てくるのを見るや否やワッと群がるように集まってきた。彼らは眼を鋭く光らせ外国人旅行者を探し出し、ライバルより1秒でも早く捕えて自分のホテルに連れて行こうと殺気立っている。むろんライバルがそれを見逃そうはずがなく、一人が声を掛ければ一斉に他の客引きも獲物に群がる。群れの中で埋もれないように少しでも前に出て、自分の声がかき消されないように喉をからさんばかりの声で叫んでいる。中には袖を強引に引っ張ったり、お互い小突いたりしてちょっとした小競り合いがあちこちで起こっていた。
それは鮮烈な体験だった。僕は、彼らを一つ一つ全力で振りほどきながら、客引きの輪を抜け出した。遠くなっていく喧騒を背に、青空を見上げながら少し早足で歩いた。

とは言え、宿に泊まらずに済むわけではない。客引きに任せない以上は自分で探さなくてはならない。1軒目に新市街のフォンニャホテルを当たった。少し古いが広い部屋とバルコニーが魅力的だった。バルコニーへのドアを開けた瞬間、カーテンが外に吸い込まれるように大きくはためいた時、僕はここにしようと思った。実は新市街の安ホテルはほとんど全て回ったのだが、結局ここが一番のお気に入りだった。人生は往々にしてそういうものだ。そして一周して最初のが一番だったと気付いた時には時間切れになっている。幸いフォンニャホテルは一周しても残っていた。

ズボンの洗濯と、ビザの申請、それから変換プラグを探すことにした。ベトナムはビザなしで滞在できるのが15日なのでそろそろビザを取得しておいた方が良さそうだ。また電気製品を使用するのに日本のA型プラグが合わず、カメラの充電が出来ていなかったので電気屋を探すことにした。色々するのに余裕を持ってフエに3泊することにした。

夜行列車ではあまり寝なかったものの目は冴えていた。休憩を挟まずに宿の外に出た。半袖で日差しを浴びながら歩くと、腕がひりっと焼ける感覚が気持ち良かった。
町中にシクロと呼ばれる自転車タクシーを見かける。彼らはやる気なく日がな一日旅行者を眺めている。まるでウサギが切り株にぶつかることを待つように、大枚をはたく気前の良い旅行者がひょっこり現れることを期待しているかに見える。料金表があればもう少し利用しやすいと思うのは素人考えだろうか。腕利きのコンサルタントなら、彼らにどんなアドバイスを与えるだろう?やはり5ドルの客を20人取るより100ドルの客を一人獲得するための話術を伝授するかもしれない。

フエには香江という澄んだ水を湛える豊かな川が流れる。久しぶりの青い川が新鮮だった。朝、駅に着いてから3時間以上歩き続けていたが、フエの雰囲気のせいか不思議と体は軽かった。

夕食はフォンニャホテルや他の安宿が入る「ツーリスト路地」の店で、フォーと春巻きにした。フォーのスープはこれまで食べてきたのと比べるとやや劣る。フォーの出汁は丸鶏と干しエビを数時間煮込むのが基本だが、フォー専門店でなければそこまでの手間はかけられないだろう。でもツーリスティックな場所にはツーリスティックならではの良さがある。第一に、ここではよそ者である引け目を感じなくて済む。それに店が、外国人旅行者が欲するものを理解して提供してくれる。食事は生きていくうえで避けられないし、旅の食事は60点あれば十分だから、言葉の通じない現地の食堂で毎日奮闘するストレスから解放されるのも、また重要なサービスだと思うのだ。