こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

ベトナム縦断9 ハノイ 2011年2月23日

2011年2月23日 

目覚めは爽やかだった。昨日の夜、旧市街を彷徨ってこの宿に来たこと、その後すぐ眠ってしまい、スーパーに行ったことがうっすらと思い出された。気分の悪さは残っているが、昨夜のような幻影を見ている感覚は治っていた。
ホテルで出された朝食はトーストと目玉焼き二つ、スイカと紅茶。食欲がないと思っていたが、食べると元気が出てきた。
窓のない15ドルの部屋にずっと泊まることはできない。宿探しに出掛けることにした。宿の人が僕の動きを見逃すはずもなく「どこへ行くの?」と聞いてくる。正直にホテル探しと答えると10ドルの部屋を勧めようとしてきたが、今の地階の部屋より5ドルも安い部屋は見る気も起らず丁重にお断りした。

さて旧市街一帯を回ってみるが、ロンリープラネットで紹介されている宿は半分なくなっている。あちらこちらでホテルの工事が行われていて、旧市街はちょっとした建築ラッシュだった。その中でかろうじて生き残っていたのがカメリアホテル第1号だった。
大理石の階段と黒光りする木製の手すり、色褪せていない床のタイル、直接照明が当たらないように上部で二重になっている天井。そして何より格子窓の付いた扉の向こうは彫刻を施した連子状のベランダに続いていたのだ。僕はこの部屋を「シュピラート」だと思った。まさしくベトナムで求めていたコロニアルなホテルだ。値段も17ドルと今の宿からわずか2ドルしか変わらない。
客観的な比較をするため他のホテルを数件当たり、ここしかないと確信して戻ってきた。15ドルになるか聞いてみると、間髪入れずにはっきりとした口調で「I told you seventeen!!」と言われたので逆に気持ちよかった。彼もこの部屋に自信があることが分かったからだ。2泊分、34ドル払った。

前宿の少し気まずいチェックアウトを済ませ、カメリアに荷物を移動し散策に出た。宿から200mほど南下するとハノイの象徴ともいえるホアンキエム湖に出る。対岸はぼんやり霞み、さざめく湖面に並木が鏡のように映し出される。神秘的な雰囲気が漂う湖だ。ホアンキエム湖の名前は、魔法の剣を授かったレロイ帝がこの湖の大亀に剣を返したことに由来するらしく、それで還剣湖と呼ぶそうだ。僕は大亀の存在自体がネッシーのようなフィクションだと思っていたが、2016年に大亀の遺体が見つかったという話を聞き大変驚いた。市民憩いの湖にそんな巨大生物がいるとは想像だにしなかったのだ。

午後に部屋へ戻り、電気ケトルで水を沸かしてジャスミンティーを淹れた。カップを持ってベランダに出た。ついさっきまで降っていた雨が上がり、木々はまだ水滴を付けたままで、空気は水蒸気を含んでじんわり滲んでいる。ホテルは丁字路のどんつきにあり、ベランダの正面にダオドゥイトゥ通りが延びる。古いフランス植民地時代の建物と改修されてべっとりペンキが塗られた建物がモザイク状に入り混じり、天秤棒をかつぐおばさん、水たまりを跳ねるバイクが行きかう。古き良き時代のハノイの空気がそこには流れている。連子状のベランダにティーカップを置いて、しばらく町の息づかいを感じていた。なんという至福の時だろう。

夕方にまたホアンキエム湖の周りを歩くと、湖面が光に照らされた夜景もまたきれいだった。そのまま南に足を進めて、フォー24まで辿り着いた。これは高級フォーチェーンだ。今まで無名店のフォーしか食べたことがなかったので、一度有名店で食べてみたかったのだ。フォー24の店名の由来はかつて1杯24kドンだったから、ではなく24種類の素材を用いているからだそうだが、45kドンはハノイ値段に感じられた。とは言え1杯180円は十分手頃で、クーラーの効いた清潔な店内で食べられるので使い勝手は良い。ちなみにこのフォー24、2011年に日本進出を果たしたものの、残念ながらすぐに撤退したようだ。いつか日本でも朝からフォーが食べられる時代が来ますように。

※カメリアホテル1は廃業している。