こふん日記

2011年の旅行記 メコン編、中央アジア編、チベット編

ベトナム縦断23 サイゴン

2011年3月6日

「バーカ!」
背中にそんな言葉を投げ捨てられると、誰でも思わずカッとなる。振り返って声の主を追いかけようとしたが、既にバイクは走り去っていた。後味の悪さだけが残るのであった。
サイゴンのセーオムは飛び抜けて悪質であると僕は思う。巧みな日本語を操り、執拗に付きまとってくる。どんな風に断っても、すかさずの切り返しで勧誘を途切れさせない。変に返事をしていると相手のペースに乗せられそうになるので、こちらもひたすらノーを繰り返すのだが、それでも引き下がらない。これは普通に説得して諦めてもらうのは無理だなと判断し、一切の無視を決め込んだ後に言われたのが冒頭の言葉である。
ベトナム特有のしつこさには慣れていたつもりだったが、これには正直辟易した。もしベトナムに初めて旅行する人がいるならば、サイゴンを最初の目的地にするといきなりベトナム嫌いになるかもしれない。

さて午前中、市民劇場の周辺の高級ブティックやホテルが立ち並ぶエリアを歩いたり、大聖堂近くのカフェでワサビチキンバインミーなる洒落たものを食べたりして過ごした。ランチのフォーはわざわざ町はずれの「フォービン」まで赴いた。見た目は一見普通のフォー食堂だが、2階が旧ベトコン司令部である。いわばベトコンの隠れアジトだ。ここに行ってから疑い深くなった僕は、日本でもレストランやバーが実は隠れ家なんじゃないか、と考える癖が付いてしまった。ついでに言うとフォーボー42kDは味の染みた牛肉がたくさん入って美味しかった。

外へ出ると日差しが強い。人もバイクの音も排気ガスも桁違いに多くて疲れる。コープマートで買い物をして宿に戻ることにした。店内も大混雑でレジ待ちに1時間かかった。部屋で3時まで横になって休んだ。


サイゴンに着いて早速だが、次の目的地を考えていた。一つ目の候補地はサイゴンから南へ三角形に突き出たメコンデルタで、もう一つはその三角の西に浮かぶフークォック島だ。これら南方面のバスは街の中心から西10?のミエンタイバスターミナルから発着する。ミエンタイとはメコンデルタのことだ。ひとまずバスの運行状況を確認するためバスターミナルまで行ってみることにした。
もしフークォック島に行く場合は、西海岸のハティエンないしはラックジャーが拠点となる。確認すると、どちらの町へも1日に複数便出ていて、所要時間はそれぞれ8時間、6時間とのことだった。これでフークォック島への具体的な道筋が見えてきた。
一方のメコンデルタは、チベットを源流に持つメコン川雲南省ミャンマー、タイ、ラオスカンボジアと4500kmの長旅を経て最終的に流れ着く場所である。雨季と乾季で水位が大きく変わる地に橋を架けるのは困難で、交通手段は無数に張り巡らされた運河が中心となる。熱帯雨林、ヤシの木、水上マーケット、それはそれで魅力的な目的地には違いなかった。サイゴンからも近い。ただサイゴンに着いて僕はすでに暑さに参っていた。南進すればおそらくいま以上に暑さと湿気が強くなるだろう。じめじめした湿地帯にたくさんの蚊が舞っている姿を想像すると、行く気力を失ってしまった。むしろ安楽なリゾートを求める気持ちが強くなっていたのである。

夕食は宿の近くの旅行者通りにある「カプチーノ」というイタリアンで、ビールとシーフードリゾットを食べた。ベトナムを旅行中である以上は、屋台でベトナム料理を食べるべきだという心の声も聞こえたが、食べたいものを食べればいいという声のほうがまさった。言い訳をするならそんなに高くないのだ。合計94kDだから400円未満。許容範囲。まあ誰かの許可を取りながら旅行している訳ではないけれども。